真夏の最後に~ざりまま編~ 1

適当に雨水を吸い込んだ山砂に、気をよくしていたのは彼女の方だった。

最初の10分で感じをつかんでからの2回目、スターティンググリッドの前でコースを見渡して、この時間の居場所を探し出す。昨日の重馬場は、SIDIのつま先を埋めてしまうでも滑らせるでもなく、程よい固さで、そこにある。両脚の間でふるえる2ストローク85ccが止まってしまわないように、右手を大きく動かすと、そのたびに神経質な高音が山肌にぶつかって跳ね返る。鈍く響くこだまの中、フィニッシュテーブルを跳び上がったマシンに視線を合わせ、少しずつ左手をゆるめていく。そして、静かに前へと動き始めた車体が、最後の左コーナーを立ち上がってくるCRF150R-Ⅱの横っ腹に向かって加速を始めた。

<つづく>