真夏の最後に~隻眼の獅子編~ 2

倒れた子どものKX65に、すぐ前を走っていたマシンがぶつかるように止まってしまう。その2台を大きく右によけて交わそうとしたときだ、後ろから大きな声が聞こえたかと思ったら、ハンドルがガツッと鈍い音を立てた。スロットルグリップに何かが当たって、勢いを失うことなく2ストロークが1台走り抜けていく。かすかに残った影は青く、小さかった。ハンドル同士がぶつかるのは不本意でも、どちらも倒れていない。チラッとこちらに移した瞳に応えるように、うまく2台を越え、その小さな背中に向かって、林を抜け出て、ギャップを飛び降りる。サスストロークを使い切って着地したSXが、反動でもう一度バウンドして、いびつに崩れたテーブルトップに挑む。

すべてコーナーで小さく回り、少しもマシンが左右に揺れたりしない。立ち上がりでマシンを暴れさせるワタシは、次のコーナーのブレーキを甘くして、遅れた分を取り戻そうとする。近づき、大きくなった背中が、揺れる視界の中でまた、少し離れていく。その繰り返しだ。おまけに今日のYZ85には、ずいぶん勢いがある。乗り慣れてきた85SXのスロットルが止まるまで、思いきり開いているはずなのに・・・どうしても届かない。最後にようやく、子供たちの集団に追いつき、よどんでいる隙を突いて前に出ただけ。チェッカーをくぐり、冷えたスポーツドリンクをかさついた喉に流してから、「お便所コーナー」へと歩いていった。

<つづく>