真夏の最後に~可憐な秘密兵器編~

あわてて100ccにかさ上げしたmatsunagaさんは、混合気の調整に手間取っていて、なかなか調子が上がらない。その脇で、いきなり冷たいかき氷をごちそうしてくれたチームの秘密兵器、紅一点が午後二本目のお相手になるとは・・・カルピスメロンのシロップに不思議な味覚を刺激されているときには少しも思わなかった。と言うよりも、まったく予想をしていなかった。ゼッケンも付けていなければ、デカールはおろかひとつもステッカーのたぐいを貼りつけていない、新車のままのKX85-Ⅱ。黒を基調に、蛍光の黄色が肩と太ももに走る玄人好きのするTHORのウェアをまとう彼女は、笑うと目がなくなって、アニメの声優を思わせる声で話しかける。その彼女に、パドックでしか交わらないと思っていたのは・・・ワタシだけだった。

前を走る小さな子どもたちの後ろで遠慮がちにコーナーを回っていると、鋭い高音がヘルメット越しに弾け、緑色のマシンがフープスの最後をインベタで立ち上がっていった。背中に光る蛍光イエロー、彼女だった。一瞬、何が起きたのかわからないまま、その後ろ姿に引っ張られるようにインフィールドからテーブルを2つ越えて林の中。matsunagaさんの言うとおり、秘密兵器はダテじゃなかった。暗がりで翻るKX85-Ⅱが、流れるような左回りを見せて、軽やかにヒカリの中へと抜けていく。大きな段差をしなやかに飛び降りて、バックストレートから続くギャラリーテーブルを、派手な動きひとつ見せず、車体をまっすぐに保ちきれいな姿勢のまま、一つまた一つと丁寧に跳び越していく。すべてのコーナーをインベタで回る背中は、まったくチカラが抜けていて、立ち上がりでマシンが暴れ出すことは、一度もなかった・・・。

今度matsunagaさんと一緒になったら・・・忘れずに訊いておかないと。「かき氷、食べていってくださいね」と微笑む秘密兵器、じゃない可憐な彼女の名を。