思えばあまりに短くて・・・

かすかに流れるアコースティックな旋律は、静かに心地よく、今たどって来たばかりの眠りの縁へとふたたび誘うよう。薄く開いた瞳には、空虚な暗がりが映り込むだけで、まったく朝が来たのかさえよくわからない。裸眼でぼやけているのはアタマの中、はたして枕につぶされたスマートフォンを取り出すと、ピッキングの音もはっきりと届いてきて、もうすぐSheのイントロが弾けそうだ。右の人差し指で小さな画面の上を適当になぞっていると、すぐにやわらかな音は消え、薄暗い部屋の景色だけが残された。

さえないアタマで精一杯、今日一日に思いを巡らせたら、覚悟を決めて起き上がるしかなかった。出窓に引かれた遮光のカーテンを思い切り両腕で開く。焦点の合わない視線の先、曇天のような空に、瓦屋根の縁だけが一筋に光って見えた。そのまま窓を開けると、夜気が滴になって、草の葉をすべろうとしている。音もなくしっとりした朝の気配に、ようやくヒカリが斜めに射してきた。真夏と呼べる時季は、そう長くは続かない。そして季節は折り返し、移ろい過ぎてゆく。