彼岸 6

さらりとした所作でシートに跨がり、4スト150ccの名手は、2、3回のクランクで事も無げにエンジンを始動させる。相変わらず素直にアイドリングするから、下のセッティングに問題はない。ただ、kusabaさんがつぶやくとおり、そこから静かに右手を開いていくと、引っかかるように同じトーンを繰り返すばかりで、まったく駆け上がってはくれない。それなのに、こんな出来損ないのマシンにヘルメットかぶって戻ってくると、走行時間のアナウンスとともに、パドックを後にしていくkusabaさん。後に残る汚い排気音に、その細くてやわらかな背中をただ見送るしかできなかった。

<つづく>