雨の最終戦 3

<11/12の続き>

第1コーナーのバンクから、走り去るCRFのリヤタイヤを引き戻すようにして、ゆっくりと息を吐く。視線をフロントタイヤの右横、バーを支えているピンに戻して、息を止める。いっせいに吠えだしたはずの轟音は、まったく耳に届かない。心臓の鼓動も聞こえない。響くのはヘルメットを叩く雨音だけだ。

エンジンが吹けきる手前で、右腕がスロットルグリップを固定する。軽く倒した上半身が動きを止めた瞬間、ピンがずれるようにして動き、バーがフロントタイヤに向かって倒れてきた。しかし、そのバーは、フロントタイヤの前に落ちることはなく、反射的に開いた左手に、エンジンの回転がリヤタイヤに解き放たれることもなかった・・・。

いったい何が起きたのか、わからなかった。

<つづく>