雨の最終戦 4(完)

<11/15の続き>

フロントフォークが大きく沈み、ヘルメットは前方に投げ出され、ステップから離した右足が空を切る。さっきまで目の前にあったスターティングバーは、落ちる途中、まだ深いフロントタイヤのブロックに喰いついていた。「ちっ、喰われた」と思うよりも早く、開いた左手の人差し指と中指が反応して、グリップのラバーに当たるまで、クラッチレバーを引き込む。そして、それに合わせるようにして右の手のひらも、スロットルグリップをひねるのを忘れてはいなかった。

力いっぱい喰い込んだバーは、つま先立ちの両足では簡単に剥がれない。短い手を伸ばしても届くわけはなく、スターターをつとめたコーススタッフが引きはがすようにして、ようやく錆びた鉄製のパイプが、フロントタイヤの前に落ちた。バーを乗り越え、4スト150ccをオーバーレブさせて駆けるワタシに、第1コーナーを回り終わった集団が大きな音の塊になって、真正面からぶつかってきた。ストッパーに当たるまでひねり上げられた右手に、たまらずCRFが、乱れた破裂音をまき散らす。

三度目の正直。まだ表彰台、それもど真ん中をあきらめたわけじゃない。その思いだけは、8分間のレースが終わるまで、消して色あせることはなかった。