それでも開けて走る 8

けしてのぞき見ることはできないけれど、ヘルメットの中、きっとパドックで目にするような涼しい顔で微笑んでいるのだろう。優しく弧の字を描く背中を見れば、よけいなチカラを入れていないのがよくわかる。反対に勢いよく下りきるそのマシンごと視線を奪われていると、CRFが一瞬均衡を失い、泥にすくわれそうになる。あわててハンドルバーを握る両腕にチカラを戻して、斜度のなくなった短い直線で車体を合わせ、小さなテーブルトップに跳び上がった。

そこから左に曲がって、やわらかな凹みをリヤタイヤが削り取ってしまった、荒れたフープスに挑む。すでに彼女のKX85-Ⅱは、続くストレートを立ち上がっている。もちろん熱く教えてくれる元IAライダーの存在も忘れちゃいけないけど、とてもワタシには似合わないしなやかさは、彼女だけのもの。ふとコースサイドを振り返ると・・・その彼も、今日は別行動らしい。むしろ走り慣れた感じのする奥の林を素直に回りきり、いびつなキャメルの上でひとつ、息を吐く。

<つづく>