それでも開けて走る 10

空から射し込むヒカリも、暗い胸の奥には届かず、音の主役が激しいフルサイズマシンの咆哮に変わったパドックを独り歩いていく。いつものようにnakane兄弟に愚痴を聞いてもらおうと近づくと、二人の隣に居たkyo-chanと、先に目があった。「調子はどう?」の代わりに「下りのワダチ、どう走ればいいかな?」と、胸に巣くっていた闇が、そのまま言葉になって出てきていた。

たぶんkyo-chanは、愛機のCRを全開にして駆け下りているはずだ。それでも彼は、怖いからと言ってくれる。そして、「手前でちょっと戻してワダチを決めたら、パッと開けて・・・フロントを浮き気味にさせていくんすよ」と笑ってくれる。この「ちょっと戻して」が、ワタシの腕前には心地よく響く。インターバルが終わり、散らばったミニモトのマシンにばらばらと、火が入っていった。

いくつものラインがぶつかり延びる第3コーナーから、深い加速ギャップの刻まれた上り坂を抜け、ゆるんだ左カーブを頂点で折り返す。聞かされた言葉を思い出し、右手を一瞬戻して下りの斜面に印されたワダチを望み、左から2本目に視線を合わせ、フロントタイヤがかかる直前で右手を思い切り手前に捻る。腰を浮かせ気味にして走れば、あっという間に、そして割とあっけなく、マシンは斜面の下に届いていた。

<つづく>