いつかの

乗降ドアのてっぺんからアタマ一つ飛び出た偉丈夫が、腰から上を屈めるようにして列車の先頭に立ちすくみ、運転席の窓越し、走る線路をのぞき込んでいる。西に向かうそのフロントガラスには、大きな杏色がまばゆく弾け、男の頬もうっすら紅く染まっている。視線の先で二本の鈍色が、川を渡り、田園風景をまたぎ、小さな街並みをすり抜ける。時折左右に揺れるのを両脚でこらえるようにして、それでも前を見つめたまま、その瞳にいったい何を映しているのか。仕事帰りには少し早い、座る人もまばらな先頭車両が、社内アナウンスとともにギギギィと音を上げて、ゆっくりとプラットホームに横付けされる。扉が開いて、冷たい風が流れ込んできても、じっと前を見つめたまま。ただ、その背中が、かすかに震えているように見えたのは、逆光に目が眩んだだけだろうか。