アジアンテイスト 前編

まだ真新しいプラスチックの匂いが残るKX250Fを、少し遠巻きにのぞき込んでは、異国の二人が何か言葉を交わしている。そして視線の先、KXに寄り添いたたずむオトコが一人、彼らの視線をはずすように、横顔で平静を装う。もちろん、気づいていないわけじゃない。カラダに似合わず大きな自尊心を抱えるそのオトコは、はっきりそうとはわからないように、耳だけを彼らからこぼれる言葉に向けてすましている。開けたパドックからつかの間、モトクロッサーの咆哮が消えて、ちぐはぐな会話が輪郭を持ってオトコの脳に届く。Hapones?ん?何語だ?マシンの生産国のことを言ってるんじゃないらしい。Pilipino?ん?フィリピーノ?何だ?それ・・・。

あまりに簡単なフレーズは、とても讃辞を送っているようには聞こえなかった。

<つづく>