アジアンテイスト 後編

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北軽井沢の森の中、耳慣れない言葉が、オトコと、その彼女の奥底にだけ響く。タガログ語はフィリピンの母国語。彼らは、遠く北方の島国で、自分たちの同胞に出会えたうれしさのあまり、祖国の言葉で話しかけていたのだ。そう、彼らにとってオトコは、フィリピン人だったのだ。

思い返せば、今まで同胞と信じて疑いもしなかったオトコは、確かに筋肉質でも細身で、たっぱもそれほどじゃない。肌の色も、いつも灼けたように浅黒くて、どこかに赤道直下の陽射しを感じさせていた。DNAからにじむその匂いは、消せはしない。

 「日本人じゃないよな」

 「フィリピン人だよ」

異国の、それも街からとても離れたのどかな景色は明るい新緑に囲まれて、目の前にあるマシンは、グリーンモンスターを標榜するカワサキ。故郷を思わせる緑は、彼らの瞳を少し曇らせてしまったか。

「オレって日本人じゃなかった?」。オトコのつぶやきは、傍らで腹を抱える彼女にはけして届かない・・・その体躯と色と匂い。誰も口に出さず、でも、どこかでそう思っていた。消せやしない。