2年ぶりに榛名の夏 5

どうにか下り勾配の端までSXを運んでから、一度クラッチを切ってみる。すぐにエンジンは音を消し、あとは斜面を下るシートの上、何度クラッチレバーを離してみても、爆ぜる2ストロークの排気音は聞こえてこなくなった。それどころか、クラッチレバーを握らなくても、マシンはリヤタイヤを回しながら惰性だけで、坂の底を目指して走り続ける。

ずっと昔に、これとよく似た感覚を味わった気がする。そう、遠い昔、公道を2ストロークマシンで闊歩していた頃のことだ。底からわずかに上ったところで、SXが完全に動きを停めると、忌まわしさをまとう記憶の欠片がひとつの像に結ばれていった。

<つづく>