愛すべき瞳

北海道からオホーツクへと抜けていったはずの台風。それが引き連れてきたやっかいな南の風が、陸地に這い上がっては、湿った灰色の雲をわき上がらせる。徐々に色を濃くしていって空を真っ黒に覆ってしまうと、直に大粒の雨がぶちまけられて、路地に薄く川が流れる。そして、その雲間が気まぐれに瞬くようなヒカリを走らせれば、一瞬の間が空いて、雷鳴がとどろく。

瞬間、家の壁が揺れるように響くと、それに合わせるようにネロがくうんと鼻を鳴らす。四十路を過ぎて気弱になったのか、子犬の頃はまるで平気だったのに、今では雷が聞こえるたびに、声を上げるようになった。あんまりうるさいからゲージの扉を開けてやると、フローリングの床にカチカチと爪の音を立てながら、ダイニングテーブルの下へと一目散に駆けていく。その瞳は黒くて、あの頃のままだ。