雨の慕情

ツーリングで思い出されるのは、たいてい辛いシチュエーション。たとえばレインウェアを通り越してパンツまでびしょ濡れになって、なお走り続ける峠道なんてのは、その最たるもの。そして、そんなひどい雨に当たる日にかぎって、雨の讃美歌が口をつく。

きらびやかな衣装をまとい、生演奏のオーケストラを背にステージのド真ん中、独り演じ歌うこの人には、艶歌の字を当てるのがしっくりする。ただ、今朝の雨は、そんな彼女がしっとりと歌い上げる、細くうっとうしいだけの雨じゃない。はっきりそれとわかる音が、窓を叩き、アスファルトに跳ね返る。

雨雨降れ降れ もっと降れ

私のいいひと 連れて来い

降りしきる雨に視界が煙り、これじゃあ訪れる奇特な人もいやしない。なんてうそぶきながらハンドルを握り前を向いていると、思わず口ずさんでいる不思議。ひどい雨になった。