旧知 4(完)

“ホームコース”ロスか、それとも相方“ジャイアン”ロスなのか。

刺激が足りないといった風に、4ストローク150ccを静かに走らせるざりまま。それでも、最後のロングジャンプを果敢に跳び出しては、RMよりもはるか先で、きれいな着地を見せる。いつか「カッコよくジャンプ、跳んでみたいから」と、モトクロスを始めた理由のひとつを話してくれたっけ。ダブルや大きなジャンプにも挑むカノジョは気丈だけど、それだけじゃない。ひどく壊れやすいハートを持ち合わせている。レース本番、どうしてもスタートで前に出られないのは、そのせいだと自嘲気味に笑う。初めて会った雨のレースでは、そう思えなかったけど・・・カノジョは走り続けている。

気がついたら、ryoよりも長い時間、コースの上に一緒にいる。真後ろに着いた2ストロークに振り向くと、左へマシンを寄せて、先を譲る。“ホームだった”コースでは無かったことだけど、きっと前に出して追いかけてくるつもりなのだろう。軽く右にヘルメットを傾げてから、続くコーナーに目をやり、右手を強く捻り上げる。ゴーグルレンズに、THORのウェアが大きく映り込む。この先の10年、並んで走っていようと言ったら、カノジョはどんな顔をするだろうか。そんなカノジョには、冴えた赤がとてもよく似合う。