かすみがうらの空 4

「9時になりました、走行を開始してください」。もう何年も前からずっと聞いていたはずのアナウンスが、杉の木立に紛れて風に流れていく。

パドックから50m、そこはもうコースの最終コーナー。バックストレートを気持ちよく駆け上がってきたマシンが、ここで強めのブレーキングとともに車体を右に翻す。大きなアール、アウトの縁にはちょうどいい目印に杉の木が一本まっすぐに伸びていて、その根元にリヤタイヤをかすめてゆるやかな上り勾配を駆けていく。ひとつ目は右へのターン。低い位置でコースを折り返し、すぐにテーブルトップを跳び上がる。ワタシに操られたCRF150RⅡは、ただ真上へと放り上げられて、続く左巻きのブラインドカーブへと突っ込んでいく。インでもアウトでも、その間でも。腕さえあれば、ラインは自由だ。そして、目の前には短いテーブルトップの斜面、午後は逆光に黒く塗りつぶされる壁が現れる。ここを跳び越えて、再び右にターン。今度は6つのコブが不均等に並べられたフープスへと立ち上がる。骨をきしませるような衝撃を我慢して下りながら左に曲がっていけば、大小のテーブルトップジャンプに挑む、コースの見せ場に差し掛かる。まだフルサイズマシンしか跳びきっていない、その大きなテーブルトップを跳び降りて、途中荒れた直線を全開で抜けると・・・今、最も危険な日陰のセクションが、ワダチを刻み待ち受ける。

<つづく>