困惑の水曜日

本郷までたどり着いても、二時間ほどでまた我孫子に舞い戻る水曜。昼飯を抜いたせいで、どうにもやる気が出てこない。午前中には終わって本郷でゆっくりランチ、午後にひと仕事済ませて我孫子に帰る。それがすべて台無しになったのには、もちろん訳がある。痛みの原因がやっぱり知りたくなって、そのために寄り道した日暮里に、思いがけず午後まで足止めされたからだ。

エレベーターで4Fに上がると、自動ドアの入口が視界の左隅に映る。見覚えのある風景に降り、左手で軽く開閉のスイッチに触れれば、ガラスドアは引かれて、中から暖かな空気が流れ出る。受付に座る看護師が変わらぬマスク姿で、目だけでにこりと笑う。「ひさしぶりですね」と明るく声をかけられて、思わず微笑みを返してしまった。きっと彼女の記憶力は優れているんだと言い聞かせて、ソファにゆっくりと腰を落とし、鈍く痛むあたりをさすりながら大人しく順番を待つ。問診票には素直に「モトクロスをしていた」と書いたから、またきっと切れ長の眦で女先生に怒られてしまうのだろうか。ワタシの後ろに来院者はなく、午前中の最後になるらしかった。

女先生は、少しふっくらと、いくらかやわらかくなって見えた。ぼやけたようなレントゲンを見るなり、「今日、リハビリしていく時間ありますか」と、変わらず表情のない眦で訊いてくる。すぐにまたやって来るくらいならと二つ返事を残してから、一度診察室を出ていった。変わっていたのは、出迎えてくれた理学療法士の先生。年の頃は20代後半で同じように見えてもカラダのサイズは半分ほど、顎に小さなほくろがある。それでもベッドに腰かけたワタシを見るなり、「カラダのバランスがちょっとずれているようですね、左下がりになっています」とピシャリ。若いというだけで軽く見ていたことを恥じながら、腰から背中をほぐしてもらい、ストレッチと筋トレのやり方を細かく教えてもらう。

次のリハビリとMRIの予約をして、会計を済ませたときにはもう、1時になろうとしていた。出された処方箋を持って、いつもの薬局の扉を開けると、今度も見覚えのある薬剤師さんが受付してくれる。ここでも「ひさしぶりですけど、また膝ですか」と笑いかけられ、言葉に詰まった。今日は腰だと言うと、「寒くなりましたからねぇ」と穏やかに言葉を返す彼女もまた、ずいぶん記憶力がいいらしい。痛み止めと胃薬のセットを受け取り、通りを日暮里駅へと歩き始めるころには街はもう、本格的に午後の営みを始めていた。二年の月日は、長いか短いか・・・。