セルフが好きか?

「腰、やっちゃってるんすよねぇ」

低く張りのある声が、そのまま白い息になる。

誘導されるまま、夏でもこの時間は建物のブラインドになる白線にBongoを収めて、運転席の窓ガラスを降ろす。エンジンを切り、給油口を開きながらメンバーカードと割引券を手渡すと、慣れた手つきでノズルを突っ込み、レバーを半固定にして次のクルマを隣に手招く。デジタルメーターの表示が勢いよく増えていき、ガソリンホースが不規則に振れては、車体を小さく震わせる。

受け取った車内拭きでダッシュボードの埃をからめ取っていると、いきなり給油が止まり、固いガソリンホースが慣性に応えてガツンと車体を叩いた。そして訪れる静寂。耳に国道の往来が聞こえてくるまで、すっかりBongoと置き去りにされる。師走も後半、連休を前にした平日で、ここも繁盛している。一気に高止まりの価格でも喰わせなければただの鉄くず、仕事にもならない。

給油を始めたおじさんに代わって、思いをめぐらす視線の中、いつもの彼が割って入ってきた。今日は腰から、前職の話題になった。以前は赤カブを転がして、郵便局の配達員もしていたらしい。

「普通のカブならプラスチックのところが、鉄でできてたりするから・・・郵便カブって重いんすよね」

おまけに垂直に立てた背中で乗っていれば、腰にはすこぶる具合が悪いと言う。ただ、単車に乗るのは好きらしく、また配達をやってみたいとはにかむ。色が黒くて髭も濃い。主役を張るには物足りないけれど、クセはある。記憶に残るバイプレイヤーとして活躍できそうな風体が、かすかに微笑み揺れる。

お釣りをもらって、窓ガラスを上げて、「ありがとうございましたぁ、お気をつけてぇ」の声に送り出される。そういえば学生の頃、ワタシもスタンドでバイトをしてたっけ・・・。バックミラーの上でその彼が、こちらを向いて精一杯腰を折ってくれていた。