風と陽光と、

気の早い春待人が、甘い西風にコートを置き去りにして、陽光射す快速電車に乗り込んできた。内側の靴底が異様にすり減った黒い革靴に、余裕のありすぎるスラックス。その灰色には紺色のブレザーと淡い青のシャツを合わせ、明るめのタータンチャック柄が胸元の逆三角をかすかに彩っている。そのまま高校に通えそうな顔には黒のセルフレームが光り、唇を真っ直ぐに結んでは、両腕をきちっと組んでイスの上。手のひらを小脇に差し込み、肩をすぼめたようにしている。ちょっぴり悔いているのかもしれなかった。

地下鉄に乗り換えようと、その彼と一緒に電車を降りる。地上から階段を潜り込んでいくと確かに、暗がりにも似たひんやりした空気が漂っている。それでも近づく気配はさっきまで、その風、その陽射しに宿っていた。風と陽光の季節。マスクなしでいつまで我慢できるのか、そんな季節がまた巡ってきた。