Another tomorrow 2

<2016/3/22の続き>

「あめ」と黒く書かれた暖簾にカラダを隠して、丸い顔だけツンとのぞかせて。昨夏の思い出に、色あせた彼女の笑顔がにじんで溶ける。あの日のように明るいヒカリの下で、木綿地の暖簾の白は本当に眩しかった。この佇まいだけは、きっと忘れることはない。

テレビの旅番組で見た花街は、あの頃と少しも変わらない。飴色にくすんだ格子戸に、真っ白な障子紙。置屋風情に三味線の音でも流れてくれば、時間さえ遡れてしまう。二人の思い出は、そんなひがしやま茶屋街からさらに北へと外れていった先にある。

なぜ訪れたのか、今ではまったくわからない。ただ、北陸に一年だけ暮らしていた記憶と誰も知らない、遠くの町への思いが奥底にあったのかもしれなかった。とにかく金沢にほど近い、国道沿いのネオンにウインカーを落としたことは、たしかに覚えていた。

<つづく>