晩春の候 5

<4/19の続き>

南の空高くに浮かぶ太陽。陽射しにシルエットだけのKX250Fが、いつまでも土煙を引きずるから、コーナーは霞んで、息苦しくなる。唇をすぼめるようにしてひとつ息を吐き、砂と一緒に温い風を飲み込んだ。それでも、一周ごとに近づく砂塵に勇気をもらい、固く膨れ上がった右手を捻って前を追う。そして、太陽を背にバックストレートを続いて加速、最終コーナーを3台が並ぶように立ち上がると・・・真後ろに付けていたRM-Z250が、先にしくじった。

第1コーナー、アウトの縁をKX250Fがゆったりと回り始める。車体は目の前。その鼻先を掠めてやろうと、無理矢理にハンドルを曲げて、下りながらの右カーブの真ん中あたりにフロントタイヤをねじり込む。その、さらに内側を狙ったRM-Z250の黄色いフロントフェンダーが、ハンドルバーの真横、ゴーグルレンズの右端に映った。すぐにテーブルトップの斜面を登る2ストローク半クラッチに合わせて伸びた排気音にしかし、ヨシムラの咆哮は届かなかった。

一本ラインの第2コーナーを抜けて、もうひとつテーブルを跳び上がると、キックペダルを踏みつけるTHORのウエアが、右コーナーの真ん中に張り付いたままでいた。

<つづく>