晩春の候 6(完)

あとは疲れの浮き出たKAWASAKIの背中を、後ろに追いやるだけ。テーブルトップの斜面を下りきって、今度はワタシが、KX250Fのイン側にマシンをすべり込ませる。小さな車体を、もう縁に乗り上げるしかないくらいに寄せながら右に向きを変えて、フープスへは先に入っていけるはずだったのに・・・アウトを回っていた4ストロークが、その企みを砕いた。

ゆるやかな緑の弧線が途中で、まっすぐワタシの目の前を塞ぐように切れ込んできた。ぶつかるかブレーキレバーを引くか。迷うこともなく引き寄せたレバーがフロントフォークを縮めて、ハンドルバーへつんのめったカラダがリヤタイヤを浮き上がらせる。フロントタイヤを掠めて抜けるヨシムラのサイレンサーに、2ストロークが大人しくなった。

コーナーに独り残され、弾みながら小さくなる背中をただ見送る。エンジンと一緒に張りつめたものもぷつり途切れて、右腕が急に重たくなった。そして3台は散り散りに、1台ずつ最終コーナーから消えていく。戻ってきたパドック、気づけば日向にトランポの姿はなく、日陰を求めて、いつもとは反対側に小さな塊りができていた。噴き出す汗に当たる風はもう、春を過ぎていた。