房州の恋心

鋸南町の南の外れから鴨川へ。

海岸線を離れて穏やかにアスファルトを流していると、道はすぐに、緑を切り取る急峻なワインディングに変貌する。半島を東西に渡る県道は、まったく通りがなくて、夏を前にした休日にはさほど利用価値がないのかもしれなかった。さっきまで後ろに着いていたはずの軽自動車もさっさと居なくなり、2車線を分かつ白い点線だけが右に左にときれいなアールを描いては消えていく。

履き替えたばかりのYOKOHAMAが、ハンドルを扱う両手に、その軽さを伝えてくる。ただ、1.8Lのガソリンエンジンでは、エアコンを切っても5速ホールドが許されない。あと少し、ブラインドを2つか3つ抜けていけば鴨川市に入るといった辺りまで上ったところで、平坦な切り返しの先が小さく光った。

ヒカリはそこからあっという間に近づいて、集合管とエンジンの腹を見せつけるように翻り、バックミラーの彼方に見えなくなった。たまにはマルチエンジンを走らせてみたいーーバックミラーに視線を残したまま、そうつぶやいてみた。開け放した窓から聞こえる、伸びやかなエグゾーストノートにのせて。