「やっぱ、楽しいわ」 5

<7/27の続き>

こんなときは、ハリイチを変えるのが手っ取り早い。

すぐにパドックに戻って、RMをフレームの下からレーシングスタンドで持ち上げる。かがみ込んでPWKのボディに飛び散った泥をていねいにウェスでふき取り、前後のバンドをプラスドライバーで緩めると、スロットルケーブルを着けたままボディを90°、手前に倒してやる。あらわになったトップカバーのビスを2本取り去れば、リターンスプリングの反力でニードルごとスロットルバルブが、ボディから飛び出てくる。

左の手のひらにトップカバーを収めながら親指、人差し指、中指の三本でリターンスプリングをたぐり寄せるように縮めていって、右手でスロットルケーブルから半月状のスロットルバルブを取り外す。スロットルバルブに刺さったアルミの「ハリ」、ニードルを引き抜き、クリップのはまる「イチ」を一番上、1段目に付け替えると、そこから時間を遡るようにしてスロットルバルブをPWKのボディへと戻していく。

ガソリンコックを真下にしてからステップに立ち上がり、キックペダルをゆるく踏み落とす。さっきよりも軽い排気音が弾け、パドックの端から曇天へと響いていった。

<つづく>