「やっぱ、楽しいわ」 9

RM-Z250のエンジンストップでバトルも途切れて、ゆるんだ口元のまま、パドックに帰っていく。今日は日除けじゃなくて、時折落ちてくる通り雨を避けるためのサンシェードに、いくつもの笑い声が満ちていく。少しだけ湿った、夏の涼風に気を良くして、すぐに愛機のシートにまたがると、キックペダルに手をかけた。85ccらしい、ひときわ高い排気音が、その湿った風に乗って流れていく。

まるで心許ないコックピットは、ヒザの下で挟みつけるガソリンタンクの小ささなのか、短いハンドルバーのせいなのか。とにかくフルサイズから戻ってRM85Lを走らせると、自分がガリバーにでもなった気がしてくる。そんな戸惑うワタシの後ろに今度は、YZ250Fが張り付いた。yuutaくんだ。交わすのにコーナーひとつもあれば十分なカレが、なぶるように後ろから爆裂音を響かせる。

それはそれで、悪くない。ミニモト相手に大人げない走りを、見るではなく背中で感じながら、コーナーを抜けて、テーブルを跳ねていく。

<つづく>