「やっぱ、楽しいわ」 10(完)

いつもなら譲ってしまうのに、今日はどうかしている。そしてそのまま、右手がしびれるまで4ストロークのフルサイズマシンを引き連れ走り続けた。ようやく午後に終止符を打ち、最終コーナーをゆっくり回っていくと、濃い林の影にyuutaくんが、思いきりスロットルを煽っていった。その音だけを送り、パドックへと下りていくRM。入れ替わるように出て行ったYZ125には、背中に「KOUTA」の文字と「114」が描かれていた。

ルーストを上げて反転、コーナーとコーナーをまっすぐ結ぶやり方は、メーカーを背負い走ってきただけのことはある。

シートの後ろに腰を「く」の字に引いて、ステップに立ち上がったまま、最後の右カーブへとYZ125が走る。アウトバンクいっぱいに車体が翻り、クラッチレバーにかけられた左指にリヤタイヤが操られて、そこから林の先へと一気に駆けていく。第2コーナーを褐色の砂塵に包み、乾いた2ストロークサウンドがテーブルトップの向こうで折り返すと、古びたONEALのジャージが、目の前のフープスでゆっくりと動きを止めた。

「やっぱ、楽しいわ。モトクロス最高!」

ゴーグルレンズの奥で瞳が笑い、頬に汗のような粒を光らせて、saitoさんが声を張り上げる。コースサイドの仲間たちも、つられて笑顔になる。MOTO-X981には、こんな素敵な男がいてくれる。いつしか雨も消えて、雲の割れた空から夏の陽が、ぼんやりとのぞき込んでいた。