manmi 4

「マンミには無理だって!」

渚を走るドライブウェイをはさんで海とは反対側、白砂が一段高く盛り上がって、遠くに松林がのぞいている。ワンボックス車の背をはるかに越えたスロープ、そこを越えてみたいと言い出した。バイクに慣れているならできないこともない。ただ、砂を噛んで跳び出すには、それなりの思い切りが必要な斜面だ。ツーリングの出先、しかもこんな遠いところでカノジョにやらせることじゃない、そう思っていた。でも、カノジョはそう思わなかった。坂に向かい、挑む気満々でスロットルを捻っている。今よりも昔は、たしかに頑固だった。

「だから無理だって言ったろ」

初心者は、当たり前のように斜面を前に右手を返し、坂の中程でフロントタイヤが砂に刺さるようにして動きを止めて、そのままカノジョと一緒に転げ落ちてきた。なぜ上れないのか、それがわからなくて・・・真っ赤なゴーグルの奥に悔しさをにじませている。勢いが足りないのだと教えてやると、もう一度マシンに跨がってセルを回した。結果は同じ、ただ今度は転がり落ちることはなく、斜面に左足を着けて踏ん張っていた。腰高のマシンに負けないくらい、カノジョの腰位置も高く、その脚はキレイにすらりと長かった。

どうしても納得のいかないカノジョに代わって、TT-R250のシートに腰を落とし、2速で斜面を駆け上がる。途中で腰を浮かせ、少しだけスロットルを緩めると、重たそうに車体が砂から離れて、宙に浮き上がった。松林の手前で大きく旋回して、腰を引きながら斜面を降りて、そのまま持ち主にハンドルを返してやる。「勢いが足りない」という言葉の意味がわかったらしく、瞳は穏やかに微笑んでいた。

<つづく>