「さみしいね」
「何か、さみしいね」
洗面台にかがんだワタシの背中を、二つの腕が優しく包んでいく。
明かり取りに東に開いた小さな窓が、鈍色に小さくにじんでいる。八月、ついに姿を見せなかった青い空は、九月になっても雲の上に隠れたまま。陽の光跡は低くなっていって、注ぐヒカリの輝きも薄れていく。目を細めて見上げた夏は、もう背中を向けている。
「暗くて、さみしいね」
ヒカリのない朝。厚い雲と季節の移ろいが、何となく人を悲しくさせる。じっと動かないでいる二人に灯りが陰影を映す。一枚一枚、羽織るものが増えていって、夜がにぎやかに彩られるその日まで・・・我慢するしかない。
「さみしいね」
つぶやき見上げた空は、いつしか眩くヒカリをまとい、高く澄んでいた。