ばくだん

タクシードライバーが教えてくれた割烹の店は、駅前の華やかなネオンから少し離れて、古い寺の陰にやわらかな色を漂わせていた。表通りからはまったく見えない、言われたとおり「ちょっとわかりにくいところ」にあったけれど、近づく暖簾をくぐる前から笑い声が、灯りとともに外へとあふれ出ていた。ゆっくりと格子戸を引き半身を中に入れるとすぐ、眼鏡をかけた若い仲居さんと目が合った。右の人差し指と中指を立て「二人」と告げると、「カウンターでよろしければ」と目配せされる。見れば真ん中に席の空いたカウンター越し、大将と板長が忙しなく手を動かしていた。

<つづく>