見覚えのある、その背中に。 10(完)

前になり後ろになりを繰り返して、パドックに停まるBongoへと戻っていく。チェッカーフラッグを合図にしないだけで、それはいつもと変わらない。太陽が遠く林の緑に近づいていって、ようやく西の方角がわかったところで、どちらからともなくブーツのバックルを外し始める。揃いのイスに寄りかかった背中は大きく、息をするたび上下に揺れていた。

「また遊びに来てよ!」

帰り支度を終えてBongoを走らせるウインドウ越し、受付の近くで重機を転がしていた男性が、大きな声で呼びかける。ありきたりで、いつもの週末のような雰囲気に、ryoが思わず顔を見合わせ笑い出す。そして、ダッシュボードの上に放ってあった駐車証に手を伸ばすと、下ろしたウインドウからポストの口に落とした。

「また来ますね、お疲れさまでした!」

いつものような台詞に、くすんだガラスの向こうで今度は男性が、微笑みを返す。その後ろで千歳の空が、風に洗われたように、どこまでも青く広がっていた。今が秋であることが、ちょっとだけ悔やまれる。まだ眩しさを残す太陽を背に、ゆっくりとBongoがコースを後にする。二人、来夏の再来を胸に秘めて。