ばくだん 3

真正面にいるはずのkeiに一瞥をくれただけで、大将がにぎやかに魚を捌いていく。そのお相手は、白髪頭の男性。口とは裏腹にていねいな包丁さばきを間近に眺めていると、さっきの仲居さんが注文を取りに来てくれた。サワーとゆず酒のロックと一緒に、地魚の天麩羅ともちろん刺身を頼んでから、もう一度「お品書き」に目を落とす。「越後牛のサーロイン」とは、割烹に似合わしくないお品も大いに興味のあるところだけれど、はじめての街、それも海の街とくれば、魚介を差し置いて牛の肉もない。お通しとグラスが二つやってきたところで、keiの快気祝いにと蟹の刺身を追加する。別の空気をまとったように、二人だけが別の世界から注文を続け、二人だけの話を続けていく。その見えない壁をじきに、「爆弾」が破ることになる。

<つづく>