妄想からの金曜日

ところどころ錆の浮いた朱色のボディが、鈍い光にたたずんでいる。田圃の真ん中に忘れられたように、二本の轍が、路肩からその後ろを蛇行しながら追っていく。掘り起こされた褐色からはやわらかく水蒸気がただよい、遠くまで地を這い延びている。その彼方に積み上げられた枯れ草の山は、湿った煙を細くまっすぐ立ち上らせて、煙はどこからか薄く雲の張った空へと溶けていく。走る車も、アスファルトに灰色の影を小さく落とすだけ、太陽がどこにいるかもわからない。「このままどこまでも走っていって」。助手席に座るカノジョが、こんなことを言ってくれたなら・・・そんな妄想からはじまる金曜日。春は遠からじ。