あれから・・・

「ネロちゃんは元気?」

旧いMX408をよく知る顔が二つ、目の前に並んで、犬を連れた一人が、そう話しかけてきた。いつもは成田にあるコースで走っているというカレは、相変わらずスズキのフルサイズに跨がり、遠い記憶に目を細める。

「コイツ、新型なんだよね」

足下にまとわりつきながら、細かく尻尾を動かす二台目ならぬ二代目。先代は、17年以上生きて、大往生だったとゆるめた口元で教えてくれた。そういえばもう何年も会っていなかった。

しばらく話し込んでいると、思い出したように小さくうなり声を上げて、いきなり吠えられる。名前を聞き忘れたコイツの人見知りは、先代譲りらしい。

「もう10年ぐらい?まだかな?」

ナノハナと名乗り始めて、MX408にも通うようになって、コースで話のできる人が増えてきた頃。MCFAJのレース前日に走りに行くことが、ナノハナの一大イベントだった頃。そんなレース前の練習日に、ネロはコースに捨てられていた。それから我が家に来て・・・もう8年になる。

「元気ですよ、連れてくれば良かったな」

そう言って、マシンを降ろしたボンゴへと戻っていく。五月晴れの日曜日。乾いた北風が強く足下をさらい、薄く褐色の影が立ちこめる。今日のマシンは、そのナノハナ色。あの頃と同じ”片シュラウド”のままのRM85Lが、陽射しに負けない黄色で佇んでいる。

<つづく>