気分は上々 8(完)

<4/11の続き>

弱気な背中はうまく消せているだろうか。

シートに腰を残したまま、右肩から上半身を、カーブの内側に落とし込む。気持ちが悪くなるほどのリーンイン。ロードバイクに乗るときの影が出始めて・・・背中に焦りがにじんでいないことを祈りながら、坂を駆け上がる。光を遮る林をくり抜いた、左の切り返し。その頂点を少し過ぎたところで、マーシャル姿の元IAライダーが、コースに向かって腕を回している。その足下、アウトいっぱいにはらんだCRFが、全開で坂を駆け落ちる。「この先、詰まるとしたら・・・」、心配事を蹴散らすように、左のつま先がシフトペダルに触れることなく、そのままフープスへと入っていく。4ストロークエンジンが吹けきり、むせぶ。気が遠くなるほどの時間を使ってコブを抜け切ると、全開で作ったわずかばかりの貯金が、続く短い直線に向き合うまでにすっかり無くなっていた。

あと1/3周。

カーブにもジャンプにもセクションにも、どこにも好きなところは残っていない。インフィールドの短い直線からただ右へ、直角に折れる。一瞬、ラインに迷って、CRF150RⅡの重たい車体が、すぐ目の前のテーブルトップの斜面の外へ、転げ落ちそうになる。ヘルメットごと視線を本来のラインへ戻すと、遅れてマシンも戻ってきた。ひとつスロットルをつないで、二つ目のテーブルトップを思い切って跳んでみる。ランディングの先の平らな砂に勢い落ちたCRF。ハンドルバーがアウトバンクにぶつかりそうになる。力の入らない左脚をあきらめ、右腕一本で車体を寝かせて、斜面に向かい、その手でスロットルを引き絞る。湿った粘土が、ハーフパイプのように右から左、そしてまた右へとうねるようにのぼり下る。もっとも苦手なセクションに、最後の破裂音がこだまする。

すぐ後ろにいたはずの音はもう、耳に届かなかった。