雨の記憶

思い出すのはいつも、レインウェアを着込むしょぼくれた姿。

ただのアスファルトに間口を開いた商店の、そのわずかな軒下に潜り込んでは、吹き込む雨に濡れないように背中を反らせながら、最初にジャケットに腕を伸ばしていく。裏地のナイロンメッシュが革ジャンの表面に引っかかっては吊れて、なかなか手首が出てこない。不自然なままに折れ曲がった両腕を、何とかまっすぐにしたら、次はブーツを脱いで素早くパンツに足を通していく。さっきから雨の端を吸い込んでいるデニムに、裏地のないビニール地が張り付いて、こちらも全く足が通らない。片足立ちのまま、パンツを両手でゆっくり引っ張り上げて、ようやく見えたつま先は、バランスを崩した上半身を支えようと、あっさり地面に落ちる。急いで引き上げた指先に、湿った綿の感触が伝わった。

原色のウェアを纏うのは、鉛色に沈む心。そのコントラストに風が雨をかぶせていく。素知らぬふりで店番をしていたお母さんにお辞儀をして2ストロークに跨がり、雨の流れるアスファルトへ蹴り出していく。ライトスモークのシールドに雨粒が音を立てて弾けた。乾いたLAサウンドのハミングにスロットルを合わせてやると、小刻みに揺れるリヤタイヤが高々と水しぶきを上げる。

覚えているのは、首筋から流れてくる雨のひんやりとした感触。いつしか夏は終わって、あの頃と同じ秋の雨につつまれていた。