懐古 4

<12/14の続き>

仕掛けるなら・・・・・・できれば一番堪える場所がいい。

そんな邪な心を知らぬままに、青い車影が逃げていく。コーナーの前後で車体が左右に暴れるのは、後ろが気になるから。少し揺さぶりをかけてから、再開した3周目で前に出る。明らかに乾いたサウンドを響かせながら追いすがるYZ85LW。排気バルブを手に入れた最新型を真後ろに従えて、正規のレースとは離れたところで流れる、二人の時間。午前中のヒートで私が先にフィニッシュしているから・・・・・・そう簡単に引き下がるわけにはいかないはずだ。

コースサイドから届く声が自分に向けられてると思うのは、二人とも同じらしい。RMのくぐもった音とはまるで違うエキゾーストノートは、あれから付かず離れず、ずっと後ろを走ってくる。ホームストレートの声援に気をよくして大きく右に立ち上がり、第1コーナーをバンクの縁までいってから切り返す。ふと落とした視線の先でYZを駆るカレが、小さくインサイドをたどろうとしていた。

テーブルトップを高く跳び越えて、インフィールドからフープスへ。波打つ土の上、きしむ脇腹に気持ちを持っていかれないように腰を引き、両肘を屈伸させて、その波を切って走る。インサイドのレーンを立ち上がるRMにアウトサイドから、青い車影と乾いた排気音が被さってくる。第1コーナーは内側から、ここは外側から・・・・・・どうやらカレの方は、このどちらかで仕掛け返してくるらしい。

<つづく>