懐古 6(完)

<12/20の続き>

L-1のボードを片手に笑うmori-sanが見えた。スターティンググリッドに収まるユージさんが見えた。そして、#2を着けた最新型の後ろに、旧式のYZ85LWをうまく走らせるkojimaさんの姿が見えた・・・・・・。

ラストラップ、第1コーナーを先に立ち上がり、痺れた右手でRMを倒さないように、丁寧にスロットルバルブを開いていく。内側にひん曲がったサイレンサーから細くこもった音を伸ばしながら、インフィールド最後の左コーナーを低く飛び出して、フープスへのアプローチを短く加速する。端からそうと決めていたインサイドにRM85Lのフロントタイヤを導き、車体をゆっくりと右に傾げるとすぐにまた、今度は左へと翻って、最初のコブへ斜めに入っていった。

耳に届くのは、聞き慣れたRMのエキゾーストノートだけ。あの高く乾いた排気音はもう、ヘルメット越しの耳に届いていなかった。

#2のYZの前でフィニッシュラインを越えて、テーブルトップの斜面を下りながら後ろを振り返る。シートの上、悔しそうな瞳をこちらに向けたままのカレがそこに居た。#99のCRF150RⅡとともにグリッドに収まるユージさん。次のクラスをシミュレートするその瞳の奥に、二人の勝負は届いていただろうか。そして、恨めしげに空から覗く、悪戯好きのアイツにも届いていただろうか・・・・・・。

「イチゴーマル、粗末にしたら化けて出られるよね。そうだよ、ryoにそう言っておいて」

パドックに帰って汗に濡れたVFX-Wをはぎ取って、ユージさんの言葉を思い出していると、背中から明るい恨み節が聞こえた気がした。しばらくココに戻ってくるのも・・・・・・悪くないか。