小さな冬旅

ユニクロの暖パンも一時間だった。

風のない、穏やかに光る昼下がり。彼の非力な4ストロークは、125cc分の混合気を規則正しく吸い込んでは吐き出して、ひとつひとつ、土手の上のアスファルトにこぼして走る。時々、フロントタイヤの巻き上げた小砂利がフェンダーにぶつかっては、大きな音を響かせた。濃い水色の空はどこまでも高く、雲はひとつもない。

川の流れがまっすぐになって、刻まれていたビートが、連続した音に伸びていく。川面に陽光がすべり出して、突き出た両膝の頭が冷たくしびれてきた。わずかに返した右手が、陽を浴びた体にじわりとぬくもりを巡らせると、吐息がスモークシールドを曇らせて、二つの肩が小さくゆるんだ。

戻した視線の中、デジタルメーターに写し出されるのは緑色のNの文字と、左右の矢印だけ。すっかり干からびてしまったバッテリーは、セルモーターを回すどころか、蓄電池としての役目をまったく果たせていなかった。たまに人影が見えるだけで、対向はもちろん併走する車も、速度を規制する標識もないアスファルトを、感覚だけで駆け抜ける。

許される速度できちんと走れているか、それさえ彼にはわからなかった。川を渡る橋の袂に「止まれ」の標識が現れるときだけ、クラッチレバーが静かに引かれて、右足がアスファルトをかじり、速度がゼロになる。そして、つかの間、伸ばした脚に血の気が通い、小さなビートが彼の背中に聞こえ始める。