小さな冬旅~続き

空冷4ストロークのシングルエンジンは、シリンダーがフロントタイヤへと倒されていて、その様から水平型と呼ばれている。小排気量車に多いレイアウトは、シリンダーの立ち上がった垂直タイプに比べると、どこか心許なく、頼りなさげに映る。走行風が直接シリンダーヘッドを冷やすから、熱には強い。ただ、雨や泥も直に浴びることになって、エキパイを真下に取り回すことを思うと、悪路にはまったく不向きだ。血の通い始めた感覚を蹴り上げ、そのエンジンを唸らせてまた、冷めた陽光の中へと走り出す。

幾つ目かの「止まれ」に差し掛かると、対岸から、路線バスの見慣れたデザインが重たくカーブを切って橋を渡ってきた。その前にウインカーを光らせ、彼のHONDAが黄色い弧を描いてすべり込み、そのまま土手沿いを走り抜けていく。加速し続けるシートの上、薄くFRPで覆われたタンクを絞る両膝から再び、固く冷たい感覚が広がっていく。あとどのくらい、冬を切って走るだろうか・・・・・・。それでも次は、単車用を謳った防風パンツを買い足そうと、少しスロットルを戻した彼に合わせて・・・・・・GROMがゆっくりとクルージングを始めた。