男のプライドは

あっさりとひび割れる。それも、修復できないほどに深く。

フランスのエスプリと、先の大戦と殖民地支配のヴァニティの詰まった『アマン』を読み終えて、通勤バッグに近藤史恵の小説をしまい込む。自転車のロードレースを舞台にした代表作ではなくて、選んだのは『スーツケースの半分は』という短編の連作。最近流行の小説様式は、女友達ひとり一人の旅模様を描いている。

春日部駅のプラットフォームをすべり出した急行電車の中、第一話から青いスーツケースのバトンを受けて、次のアラサー女子の旅が始まった。舞台は香港。軽妙な筆致を読み進めて、その娘の物語のトラウマが語られている55頁、元カレとの別れの経緯に目を引くフレーズがあった。

男性のプライドというのは繊細で、少し傷つけてしまうだけで長年のつきあいすら、駄目になってしまう

思わず深くうなずいたら、横に座る、これもアラサー風女子に、怪訝な顔を向けられてしまった。まったくおっしゃるとおり、男の弱さは、すっかり女流作家には見透かされていた。男はプライドの生き物で、ただ、そのプライドは、ガラスよりもはるかにもろい。花恵のように、世の女子には、そんな男の弱さをわかってほしい。

男のプライドは、あっさりとひび割れる。それも、修復できないほどに深く。