雨音が鳴る

ウェアハウスで買ったレインポンチョ。薄手の迷彩はグレーベースで、2枚セットの割引価格だった。もうひとつはあまり使われることもなく、新しくなったトランポでも隅に押し込まれたまま。その片割れを、ひさしぶりにシューズラックの棚から引っ張り出した。外は予報のとおりに雨。風をはらんで、時折扉を叩く音が耳に届く。丸めてあったポンチョを広げて頭からかぶり、ネロを連れて玄関を出る。鼻先に雨風が吹き抜けて、ネロが首をすくめた。

いつものあぜ道をそろりと歩きながら、濡れた風を目で追いかける。ポンチョに当たる雨音は、まるでテントの中に居るように耳に響く。いつも思い出すのは、バッドコンディションの心象ばかり。ただそれが、妙にくすぐったい。立ち止まって瞳を閉じる。浮かんでくるのは、どこかの山の中。フライシートを落としたままの前室でガソリンストーブに火を入れ、熱いインスタントをすすりながら、その後を憂う。それが強く心に残ることを知らないままに。

遠くの街道を、4ストマルチのエグゾーストがなぞっていく。脚を包んでいるクシタニのカントリージーンズは、こうして履くつもりで買ったわけじゃない。いつかまた、そう遠くない日。雨音で目覚めるキャンプの朝というのも悪くないか。見上げた空から大きな雨粒が、眼鏡のレンズに弾けて落ちた。