五月の夏 2

 XG250。「Tricker」の名が付けられた、この249ccのヤマハは、高速移動があまり得意じゃない。それを駆る初老のライダーに、もちろんトリックをメイクするほどの腕もない。ただ、法定速度を少しだけ上回る辺りで流すには、これほど都合よくできたマシンもめずらしい。

 ヒューマニズムを貫いたインジェクションも右手にリヤタイヤを直に感じさせて、いい仕事をしてくれる。だから、いきなり白と黒に塗り分けられたセダンに道を塞がれても、それほど困ることもない。ギアをトップに放り込んで、流れる街並みにまた、視線を戻せばいい。

 通りに張り出した木陰に入れば、ロングスリーブの中から熱が剥がれる。そして、日なたに出れば温い風が前からぶつかり、一瞬、熱に包まれる感覚に落ちる。ただ、それもしばらくすると、首筋を風が涼やかに音を立てて流れていく。

 気づけば西へ。関東平野のエッジを囲む山並みの、その藍色が濃くなってきた。Route 17をまたぎ、今度は跨線橋を越えていく。ハイウェイの下をくぐり県道を辿っていくと、神流川に架かる藤武橋の東詰が見えてくる。交差点が迫り、左のウィンカーが点滅を始めた。

つづく