五月の夏 3

 シグナルは赤。相手がRuote 254だからか、県境を越える橋詰だからか・・・・・・それまでの車線が、そこだけ三つに拡がっている。右折を待つ車を避けるようにして白いセダンが一台、左折のレーンにブレーキを合わせた。白くまっすぐな矢印からゴーグルレンズへと、陽射しが反射した。

 不意にウインカーへと親指が触れて、左に寄せていた車体は大きく翻る。真後ろに着けていたホンダの軽トラックが、くすんだエンジンを不機嫌に空吹かす。ハザード代わりに開いた右の手のひらを垂らすと、ざらついた排気音は遠ざかり、空冷単気筒のやわらかいビートがまた、ヘルメット越しに届いた。

 左の足先が、ニュートラルを探し出す。先に下ろした右脚、その太股に陽射しは容赦しない。いよいよ上りつめた太陽に、影はどこまでも黒く濃く落ちて、クラッチレバーを放した指の先が、そのままの形でアスファルトに浮かんでいる。砂利をこぼしながら、はす向かいに停まっていたダンプカー。その錆びたバンパーが震えるようにして、わずかに前へ出た。

 シグナルが青。遮るもののない緩やかなダウンスロープが、整えられた土手の下へと延びている。2、3、4・・・・・・小刻みにシフトアップしながら、タンクバッグのツーリングマップルをなぞっていく。まだ知らないルートへ。この前地図で行く道をたどったのは、いつだったろうか。

つづく