五月の夏 4

 どこか近くの山に採石場でもあるのだろう、路肩と車線を分かつ白線が、砂利で茶色く汚されている。アスファルトに散らばったその欠片を、19インチのフロントタイヤが、いきなり踏みつけた。身構える間もなくリヤが左に流れ、車体が深くバンクする。短絡した運動神経が、右の足裏を路面に叩きつけた。

 ライダーを足しても200kgに満たないTrickerは、この程度の外乱で破綻はしない。その細身の車体は、勢い起立して、また加速を始める。遠くにあったはずの山並が迫り、深い緑が視界に膨れ上がる。道はその山裾を巻きながら、傾斜をつけ始める。低い稜線を隠していたのは、生まれたばかりの入道雲。市境で小さな峠を越えるらしい。

 道がアールを描きながら高度を稼ぎ出してすぐ、タイトターンの出口を、トレーラーに塞がれた。すすけた排気ガスが鼻をつく。センターには黄色いライン。ついてない。路面の凹凸がハンドルバーに届くのは、こんなビッグタイヤの仕業。非力な単気筒のスロットルを戻して、ひとつ息を吐く。

 ステップに立ち上がり、一つ、二つ、三つ。右に左にと、コーナーを数えては流す。その先でゆったりと練り歩く巨体は、山の緑に映えそうもない。ただ、化石燃料を使う辺りは、そう変わりがないし、愉悦をむさぼっている分が質が悪い。ビッグタイヤの擦れるノイズは、耳に響き続ける。

つづく