異邦人

九月の彼岸を過ぎて、秋が風に舞ったのはつかの間だった。今朝は早くから夏の名残が空に上り、ギラッとした光をフロントウインドウに射し入れてくる。冷めた空気に満ちていたはずの車内が、少しずつ季節をさかのぼり、黒いシャツを羽織ってきたことをゆっくりと後悔し始める。

町に出た帰り、昼下がりの田舎道には数えるだけの車も居ない。いつも決まって待たされる、角にコンビニのある交差点は、今日もまた、視線の先にある小さなランプを、黄色から赤色に変えてしまう。ギヤをニュートラルにして、眩い白線へとゆっくりと近づいていく。

こもる熱気を逃がすように、傍らのウインドウを下げる。肌に触る風はさらりとしていて、張り付くような不快な感覚は消えてなくなっていた。思うほどに季節の歩みは遅くはない。NENAが歌うオリジナルのロックバルーンが、その風に誘われるように外へと流れ出て、視界の右隅に黒い影が映った。

右折レーンに並んだのはアウディ。短くクラクションを2つ、左の親指を立ててドライバーが何か話しかけてくる。とても英語には聞こえない。二の腕にタトゥーがのぞく金髪は、Neun und Neunzigと叫んでいるらしい。シグナルが青に変わるともう一度、短いクラクションが響いた。

異国の男は、欧州、それも独語を話す国からやってきたのだろうか。バックミラーに小さくなるアウディに向けて、右手を大きくウインドウの外へ突き出した。肘をまっすぐに伸ばして、親指を立てて、Neun und Neunzig Luftballonsと口ずさみながら。