二代目

「社会人らしく」と手にした4ストロークのパラ4は、その強烈なエンジンブレーキと「タマ」の重さを記憶に焼き付けて、短いやりとりといくつかの思い出を残してくれただけだった。今となっては、その最後も思い出せない。そして、流行りのレーサーレプリカの波にすっかり飲み込まれ、慣れ親しんだ2ストロークの瞬発力へと帰っていった。それももう三十年以上も前になる。ブルーとスカイブルー。白い素地は濃淡の青に直線的に塗り分けられ、RGの後ろにVの文字が続いて、赤くΓと印されていた。

型式VJ21A。

栄光というゲライロの文字を冠する二代目は、並列した2つのシリンダーのひとつを直角に倒して、その狭間にキャブレターを押し込み、屈曲したチャンバーの先から45馬力の排煙を吐き出した。およそ土色の似合わないその肢体が、長い年月をボルトの端に茶色く浮かせて、砂利の敷かれたパドックに忽然と現れた。もう出会うことはないと思っていたマシンが、今、ここにある。スラントしたフロントカウルでさえ、ありふれた傾きに見えてくる。それでもその中をのぞき込めば、3000回転以下の目盛りを持たないレヴカウンターが一気に時を巻き戻す。

モトクロスブーツを履いたまま、えぐり取られたようなシートにまたがり、イグニッションに手を伸ばす。トップブリッジの下から低く垂れ下がったセパレートハンドルに左手を添えて、右手が傍らのキックアームを手探りする。右足がそのまま宙に踏み抜けて、あっさりとV型2気筒の2ストロークが目を覚ました。パドックに甘く香る白煙。その向こう側に、あの日のΓと仲間たちのマシンが、かすんで見えたような気がした。