4月1日

あと少しで6時。陽が延びたおかげで、高層ビルの間は柔らかな水色のままだ。ガラスに映り込んだ光にも明るさがたっぷりと残っている。階段をひとつひとつ足で刻んでから、第一京浜を跨ぐペデストリアンデッキの上、流れる風には冷たさが消えていた。4月らしく、春めいた温めの一日だった。

JR田町駅は、夕方の混雑が近いことを知らせるように、四方から集まる人の流れを飲み込もうと必死だ。そんなコンコースの中、あちらこちらに数人の男女の“塊”ができていて、流れを大きく蛇行させていた。男女とも黒のスーツに身を包んで、靴にも鞄にも曇りのない艶が宿っている。今日から“新世界”に踏み込んだ“ルーキー”たちだ。

生まれたばかりの稚魚が、泳ぐでもなく、集団で固まったまま波に揺れている・・・そんな印象をもつ。そのうちに、一匹また一匹と流れに引き込まれていくのだろうけど、若々しい笑い声が微笑ましくも羨ましい。稚魚らしく“薄着”で、コートを着ている者はほとんどいない。女の子はタイツを脱いで、ストッキング姿だ。

山手線で上野駅に降りた時には、夕闇が迫っていた。ここでも若い男女が集まって、なかなか離れようとしない。期待と不安が入り混じった気分は、かつて味わったことがあるはずなのに・・・今や遠い昔になっていた。4月の始まりに相応しい、その初々しい姿を見ていたら、「こちらも頑張らなきゃ!」と、知らず知らず歩く速度が上がっていた。