谷中ぎんざ

しばらく見ないうちに、南天に浮かぶ太陽にはチカラが宿っていた。日暮里駅の南口にかかる跨線橋の階段を中程まで上がっていくと、京成線の高架の先、透きとおるように薄く青が広がっている。上りきって延びる平坦なコンクリート。その中を揺れる三人の影は、くっきりと濃く地面に映されていた。

そこだけ何かに守られているように、風が凪いで、桜並木には陽射しが降り注ぐ。これで桃色の花びらが揃えば、一気に華やいだ気分になるのだろう。それでも、この明るい光があれば十分、咲き誇る木々の下を行くのと同じように、枝のすき間を埋める青い空を見上げて歩いていく。

谷中の桜並木を抜けてから、千駄木の方へと下る手前・・・ひさしぶりに向かったそば処には、甘いクリーム色のシャッターが降りていた。どうやら、定休日らしい。この界隈で、気の利いた飯を食わせるところは、知らない。落とした肩から転がるようにして、団子坂界隈まで急いだ。

今日で二度目になイタリア料理の店で、三人ともランチパスタを注文する。ボロネーゼがミートソースだと給仕の女性に教わりながら、酸味の無い丸い味がするソースを、見事なゆで加減のパスタにからめて、舌に乗せる。玉のまま煮込まれた挽肉にも、しっかり味が染みていた。

扉の内側、落ち着いた雰囲気にゆっくり浸ることもできないまま、板張りの床に靴音を響かせ外へ出る。帰りは「谷中ぎんざ」を回るから、自然と急ぎ足だ。味だけじゃなく、麺の量も“上品”だったランチの後には、“谷中コロッケ”あたりがちょうどいい。

よみせ通りから右に曲がって「谷中ぎんざ」。前からバラエティー番組で見たことのある男女が歩いてきた・・・テレビカメラと、柄の長い集音マイクが、後ろを着いてくる。その二人と同じ“メンチコロッケ”じゃなくて、お気に入りの“谷中コロッケ”を注文。1個90円を片手に、再び歩き始める。

揚げたてでもないのに熱くて、口をほふほふさせながら、じゃがいものコロッケを少しずつ飲み込んでいく。平日の昼間なのに、やたらと人の数が多い。ここの通りは、人気だ。すれ違う人を器用によけては、コロッケをかじる。ゆうけやだんだんの灰色が強い陽射しに照らされて・・・明るくはしゃいでいた。