ご機嫌な別れ 6

鷹の爪が丸ごと出てくることは無くなったけど、今日の麻婆豆腐は辛そうだ。色もやけに黒っぽい。熱が閉じ込められた豆腐を箸で少し崩し、ゴロっとしたひき肉をからめて、一口含む。この前食べた時には無かった刺激が舌に走る。クセの強い刺激の正体は・・・山椒。いくらご飯をかき込んでも、舌には刺激が残る。来るたびに辛くなったり甘くなったり・・・どうすればここまで安定しない味が出せるのか、元気に免じて許してきたけど・・・今日のは辛過ぎだ。舌は痺れてきて、ただ濃くて塩辛いだけの麻婆豆腐になっていた。豆腐だけをすくって、口に運ぶ。山椒は隠し味・・・こんなに表に出てきては、料理の均整がとれない。何とか豆腐だけは残さず平らげて、杏仁豆腐のシロップで口の中を“中和”させる。

ギリギリまで薄くしてあったRMがちょうどいい感じ。音から想像すると・・・師匠のCRF150RⅡは、混合気が濃いような気がする。黒い煙こそ吐いていないけど、ツキの悪そうな吹け上がりは、たぶん濃いはず・・・揃ってパドックに戻ると、ペラペラなナイロン製のジャ-ジさえ邪魔なくらい、体中から熱が肌へとはい上がってくる。ヘルメットを脱ぐ間もなく、額からは汗が流れて・・・今年初の“夏日”。モトクロスジャージを脱ぎ去った上半身に、当たる風は微かだ。体は冬のまま、CRFのようにメインジェットを取り換えればすぐに夏仕様、というわけにはいかない。モトクロスには覚悟の季節、得意の夏にも準備が要る。肉体を切り替えるにも、うってつけの日和。半身をはだけた野郎がパドックにあふれ、冷たいシャワーが動き始めるのも・・・もうすぐだ。

<つづく>